脱炭素を経営戦略に取り入れる企業が急増していますが、”水”を経営に活かすイメージは薄いかもしれません。

一方で、水は企業活動に関わる超重要資源です。

そこで今回は、水を経営戦略に活かすうえで重要な「水リスク」の概念や評価の方法、水に関わる資金調達・投資のトレンドについて、具体事例を交えて紹介します。

地球上の水資源のうち、淡水は全体のわずか2.5%しかありません。 その中でも人間が実際に利用できる水は、さらに限定的です。

世界経済フォーラム(WEF)が発表する「グローバルリスク報告書」では、水危機は最も深刻なリスクの一つとして挙げられています。

特に、食品・飲料、繊維、化学、エネルギー分野に関しては、原材料の調達や製造工程で大量の水を利用しています。
水不足や水質悪化が、原料調達や生産ライン停止といった形で、企業活動に影響を及ぼすケースが増加しています。

「水資源が豊富な日本で水リスクなんてあるの?」
という印象があるかと思いますので、まずは水リスクに関する用語を解説します。

バーチャルウォーター(仮想水)

農産物や工業製品の生産には、大量の水が使われています。その「生産国で使われた水」をどの程度輸入しているか、という概念が「バーチャルウォーター」です。日本は食料品等の海外依存度が高いことから、意外にも「バーチャルウォーター輸入大国」です。国内での消費が、間接的に国外の水資源に影響しています。

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日本のバーチャルウォーター輸入量
(引用:https://globe.asahi.com/article/11614201)

ウォーターフットプリント

企業活動や製品のライフサイクル全体で「直接・間接的に使用する水の量」です。自社の生産・流通・消費・廃棄の各プロセスにおける水使用量を見える化することで、潜在的な水リスクの分析が可能となります。

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コーヒー1杯のウォーターフットプリントの例
(引用:Aqua Sphere webマガジン 企業の水リスク(4))

水リスクの種類

水リスクとは、企業活動にマイナスとなる水に係わる不確実性を指します。

水リスクは、大きく3つに大別されます。

① 物理リスク(洪水、渇水、水質汚染等)
自然環境に起因し生じる水リスク。気候変動に伴い、渇水による運河の航行制限で物流のストップや、洪水で工場が操業停止に追い込まれるといったケースが増えています。

② 規制リスク(条例等による各種規制)
各国での水利用に関する規制強化(取水制限、排水規制など)による水リスク。法令違反による罰則や排水処理のコスト増などが挙げられます。

③評判リスク(風評被害等)
水資源を巡る地域社会や消費者との摩擦、信頼失墜によって、企業のブランドイメージや販売に悪影響を及ぼすリスクです。

こうした背景から、企業の水リスク対策は事業継続のために大変重要です。

水リスクを「見える化」し、具体的な対策を経営戦略に組み込むことが、企業の持続性、さらんは競争優位性に寄与します。

以下、具体的な手法を紹介します。

水リスク分析ツール

まず、自社の水使用量とその内訳(水源、用途、地域ごとの分布)を正確に把握し、モニタリングする必要があります。

具体的には「製品あたりの使用水量」「水リサイクル率」、「高リスク地域での取水量割合」などがあります。

これらを見える化することで、自社の水リスク対応に留まらず、ステークホルダーに水リスク対応への真摯な姿勢を示すことができます。

国際的に評価されている水の分析ツールの例は以下です。

・WRI Aqueduct
世界資源研究所(WRI)が提供する地域ごとの水リスク評価ツール。水の物理リスクを幅広く分析することができます。

・WWF Water risk filter
世界自然保護基金(WWF)が提供する水リスク評価ツールです。事業拠点やサプライチェーン単位でリスク分析と対応策の検討が可能です。

・CPD Water Impact Index
アパレルや食品など、産業別にバリューチェーンの各段階における水リスクのインパクトを定量的に評価することが可能です。

水リスク分析ツールの使い方に関しては、以下の記事が参考になります。

自然資本を取り巻く動向と企業に求められる対応 ~第3回~ | 経営研レポート | NTTデータ経営研究所経営研レポート「自然資本を取り巻く動向と企業に求められる対応~第3回~」をご案内します。当社コンサルタントによる独自の研究www.nttdata-strategy.com

水リスクのコンサルティング

上述の分析ツールでは、水リスクの概要を把握することはできますが、実際に自社のアクションプランに落とし込むうえでは、専門知識が必要です。

そこで、水リスク評価のコンサルティングを行う企業が近年増えています。

・Water Plan
栗田工業が協業する米国ベンチャー「Water Plan」は、人工衛星を活用した企業の水資源に関するリスクを評価・管理するプラットフォームを提供しています。

水リスクの予測|栗田工業|クリタグループ水リスクの予測|事業活動に影響する「水リスク」の予測・対応に向けた「水リスクの予測」をご紹介します。www.kurita-water.com

・八千代エンジニヤリング
上下水道を含むインフラのコンサルが主力の八千代エンジニヤリングが、その技術力を活かして、水リスクの分析・評価・対策立案まで一気通貫で行うサービスを提供しています。国内大企業の実績多数です。

TOPページ – サステナビリティNaviサステナビリティナビ|企業のサステナビリティ問題、まとめて解決。サステナビリティナビ気温上昇の影響が顕在化していく中で水資源の枯渇、洪水の多発、海洋生態系の変化、森林や生態系の破壊など、 企業とサステナビリsustainability-navi.com

こうしたサービスを活用することで、自社の内部環境・外部環境の水リスクを把握し、具体的な対策の立案が可能です。

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水リスクの分析・評価・対策のイメージ
(引用:https://www.nttdata-strategy.com/knowledge/reports/2024/240517-2/)

実は、日本企業はもともと環境意識や技術力の高さから、水リスク対応の国際スコアは世界トップレベルです。詳細は以下の記事に記載しています。

水リスクと企業戦略

企業戦略に水リスク対策を取り入れる好例として、サントリーの「ウォーターポジティブ」があります。

ウォーターポジティブとは「自社が消費する水よりも多くの水を、地域社会や環境に還元する」という思想です。ウォーターポジティブは、マイクロソフトやコカ・コーラといったグローバル企業も積極的に取り組んでいます。今後の大きなトレンドになりそうです。

“日本は水資源が豊か”は間違い?「サントリー天然水」から未来の水資源への気づきを促す啓発活動強化“次世代ウォーター・ポジティブ プロジェクト”始動サントリー食品インターナショナル株式会社のプレスリリース(2024年7月31日 14時00分)“日本は水資源が豊か”は間違prtimes.jp

水リスク対策は、コストではなく利益に転換できる可能性があります。
以下で、水に関する新たな資金調達・投資方法を紹介します。

・Jブルークレジット

海洋・沿岸生態系(マングローブ、海草など)が吸収・貯留するCO2を指す「ブルーカーボン」に基づくカーボンクレジットです。

国内最大のカーボンボンクレジット制度「Jクレジット」において、ブルーカーボンは「Jブルークレジット」として2020年に認証されました。

Jブルークレジットの特徴は、その売却単価の高さです。
2023年度のJクレジット平均売却額 3,246円/CO2-tonに対して、Jブルークレジットの平均売却額は約14倍でした。

Jブルークレジット購入によって、自社のGHG削減はもちろん、生態系の保全や地域の漁業、防災等に貢献しながら、持続可能な社会に対する積極姿勢を示すことが可能など、複数のメリットが高単価に反映されているようです。

事例としては、JFEスチールが藻場に鉄鋼スラグを沈め、藻場の成長を促進する取り組みで、Jブルークレジットを発行(販売)しています。
購入者は、三井商船など海洋に係る企業を中心に普及しています。

ブルーカーボンへの企業の取り組みとは?方法・事例・メリット・課題を解説 二酸化炭素の吸収源として、企業がブルーカーボンへの注目を強めています。海藻など海洋生態系をビジネス活用する方法・海外企業とbluecarbonneutral.net

・ブルーボンド

ブルーボンドは、海洋汚染の防止や持続可能な水産資源に関連する事業等に資金使途を限定したSDGs債(ESG債)です。

日本では、マルハニチロが地域活性を目的とした陸上養殖事業で、2022年に国内初のブルーボンドを発行しました。
また、岩手県は三陸の海洋・沿岸の保全や水資源活用等に関するブルーボンドを発行しています。

水環境に対する意思に資金が集まる現代。ブルーボンドの活用は、民間・公共問わず今後も増えそうです。

サカナクロス流 3分でわかるブルーボンド ブルーボンドって? | 魚と、その先へ サカナクロス|マルハニチロブルーボンドとは、海洋保全にかかわる事業などに使い道を定めた債券のこと。www.maruha-nichiro.co.jp

まとめ

これまで企業活動において「タダ同然」と認識されていた水。

しかし、事業のグローバル化、世界的な人口増加、災害の激甚化などに伴い「水リスク」が顕在化し、事業の継続性や企業価値に大きな影響を与え始めています。

水リスクの分析ツール、具体的なアクションの参考となる事例も増えています。さらには、Jブルークレジットやブルーボンドのように、水リスク対策を資金調達に活用できるスキームも整備が進んでいます。

今こそ「水と経営戦略」を考えるタイミングではないでしょうか。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!