前回掲載した水と社会の繋がりマップを再掲します。
今回は「水の利用、水の供給管理、国際政治」を機能させる「水とビジネス、イノベーション、教養」について解説します。
ちょっと重めの内容ですが、ご興味のある部分だけでもご一読いただけると嬉しいです。
目次
- ①水とビジネス ~水で稼ぎながら、社会を持続する~
- ・水×経営
- ・水×災害対応
- ・水×まちづくり
- ②水とイノベーション ~水・エネルギーを効率的につかう~
- ③水と教養 ~水のストーリーで、人の心をうごかす~
- まとめ
①水とビジネス ~水で稼ぎながら、社会を持続する~
水ビジネスを定義すると「自然制約下において、ステークホルダーと調整しながら、多様な用途に応じて水を最適分配すること」と言えます。
水ビジネス市場をざっくり「公共向け」、「民間向け」、「海外向け」に分けて図解してみました。
公共・民間向けでは、用途に応じた水処理・供給設備やプラントをつくるビジネスが展開されています。民間向けであれば、特に半導体製造用の”超純水”が盛況です。
海外向けでは、ODAを通じた途上国向けの上下水道整備、高度な水処理製品(海水淡水化用の膜など)の提供、水企業のM&Aや水インフラ投資といったビジネスが中心です。
業種としては、水処理プラントの計画・設計・建設を一気通貫で担う「プラントエンジニアリング企業」や機器を提供する「メーカー」、プラントの運転・維持管理を行う企業などがいます。
また、自治体等のニーズにあわせて上位計画をつくる「水コンサル」もいます。海外向けのインフラ投資であれば、総合商社が主要プレーヤーです。
今後面白くなるのは、上の図解でココ!と示した「公共×民間×海外」が重なるビジネス領域です。
公共、民間、海外領域の各プレーヤーが協業することで①水と経営、②水と災害対応、③水とまちづくりに、日本の水ビジネスの勝機があると考えています。
・水×経営
日本の水技術を武器に、企業の水リスク対応、脱炭素、ESG投資等の文脈で、国内外問わず「企業価値向上」にアプローチする余地があります。
国際指標の「水リスク対応スコア」では、日本企業が世界No.1です。
水に関わる企業活動の定量化・見える化でグローバルにアピールし、その知見を海外に展開して稼ぐチャンスがありそうです。
・水×災害対応
近年の災害激甚化に伴い”新しい水インフラ”の需要が出てきています。
大規模な浄水場・下水処理場・管路といった既存の水インフラは、災害時の断水リスクやレジリエンスの低さが課題です。
災害時の水利用を確保するために、既存の「集約型」水インフラと、井戸水や雨水、最新技術を活用した「分散型」水インフラの組合せが重要です。
分散型の水インフラ技術をリードする日本にとって、大きなビジネスチャンスです。
・水×まちづくり
災害時も水利用が途絶えない仕組みを構築し「災害に強い地域」として街の価値を高める、水を”観光資源”とした地方創生やブランディング、水辺を活用した地域コミュニティ再生など、水×まちづくりには高いポテンシャルがあります。
これらに関連するトレンドとして、2024年に国を挙げて始まった「ウォーターPPP」があります。
簡単に言うと、「公共と民間が手を組み水インフラを効率的に運営する仕組み」です。水関連企業が共同出資し「SPC」という株式会社を設立し、地域の水インフラを建設・運営する例が増えています。
今後はウォーターPPPを軸に、「水関連企業」以外のプレーヤーとも協業しながら、水と経営、災害、まちづくりの実績を国内で蓄積し、海外展開していく戦略も考えられそうです。
ウォーターPPPとは?上下水道事業に革新をもたらす官民連携(第36話)上下水道事業に革命をもたらすウォーターPPPについて詳しく解説。この新しい官民パートナーシップがどのように水道・下水道管理kantoolmagazine.blogspot.com
②水とイノベーション ~水・エネルギーを効率的につかう~
水処理・供給は「超複雑系」です。
「流入原水の変動」に応じて、「物理化学生物」の原理を「機械電気土木」の技術を駆使して、熟練技術者がコントロールしています。
この「大変な水処理・供給」をどうやって効率化するかが、イノベーションの源泉です。
例えば、半導体など高度製品の製造や脱炭素や観点から、水の使用量を「減らす」、無駄なく「使う」、キレイに「磨く」技術のニーズがあります。ここは、高度なモノづくりに長けた日本企業に強みがあります。
一方、人口減少や財政難、既存インフラ老朽化、災害対応のために「安く」、「早く」、「簡単に」水を処理・供給する需要も強まっています。
そこで、地域やニーズに応じた水インフラの「集約型」と「分散型」のデザインが重要です。
近年では水関連のベンチャーも台頭しています。
水を閉鎖系で”循環利用”する技術、AIセンサーを用いた運転管理の自動化、膨大な運転管理データをクラウド管理するDXなど、水インフラは変革の真っ最中です。
水のイノベーションが、公共・民間・海外の境界を越境し、社会をワクワクさせるブレイクスルーとなるでしょう。
③水と教養 ~水のストーリーで、人の心をうごかす~
最後の視点は「水と教養」です。
変化の激しい現代、「水と社会の繋がり」のデザインに重要なのは「過去の哲学や古代文明、歴史、文化、宗教は”水”をどう捉えていたのか?」を学ぶことだと考えています。
水を軸に教養を深堀ると、「水」がどのように人や社会を動かしてきたのかが見えてきます。
「万物の根源は水である」という言葉は、古代ギリシャ哲学者のタレスが自然を徹底的に観察し構築した理論でした。
老子は「上善は水の如し」と説いています。川の水が上から下に形を変えながら流れ、下流を潤す様子から、柔軟性や謙虚さを感じ取り、理想的な生き方(上善)=水として教えを説きました。
これらの思想は、後年の西洋哲学・東洋哲学や宗教、科学の発展に大きく影響しています。
古代文明は川沿いで発展しました。中央集権的に「ヒト・モノ・カネ」を大量投下し高度な灌漑事業を行うことで、農作物の生産性向上、人口増加、そして文明発展をもたらしました。
「水」が文明発展の起点になった、とも言えそうです。
一方、行き過ぎた灌漑事業が農地の塩害化や洪水、干ばつ、水紛争を引き起こし、”水に溺れて”文明が滅びたとする研究もあります。はるか昔の話ですが、現代社会の「集約型水インフラ」の限界、不平等な水利用に起因する水紛争といった問題と本質は類似しています。
水が豊富な日本では、水を軸に信仰や暮らし、文化が独自に発展しました。
縄文人は湧水や池など、水源の近くで生活していたそうです。自然に無理をかけない”今っぽい”ライフスタイルかもしれません。
平安時代には、武士貴族平民の身分を問わず、あらゆる人が川を題材に歌を詠んでおり、厳しい階級社会においても「水」を軸に平等な交流がありました。
仏教では、川の流れや音、泡の浮き沈みを観察し、世の中の本質を汲み取る「水想観」という修行があります。神道の「滝行」、キリスト教の「洗礼」やイスラム教の「お清め」など、東西問わず「水と信仰」は深く結びついています。
建築やアートの分野でも、水は人の心を動かしてきました。古代ローマの水道橋や大浴場は憩いの場でした。
世界各国の庭園では、水のモチーフが頻繁に用いられており、各国独自の「水の感性」が人々を魅了してきました。
歌川広重の「線の雨」、葛飾北斎の「白波」といった水の表現は、今も世界中の関心を集めています。
こうして「水と社会」の歴史を紐解くと、水がいかに人々の心を動かしてきたのかが見えてきます。
過去の先人たちに「水との付き合い方」を学び、これからの「水と社会の繋がり」の”正しい方向性”を考えていくべきです。
(目先の利益・課題だけを優先し、社会のバランスが崩れないように….)
まとめ
全2回にわたり、水の利用、供給・管理、国際政治、ビジネス、イノベーション、そして教養の視点から「水と社会の繋がり」について書いてきました。
少しでも「水」を身近に感じ、皆さんの生活やビジネスにおいて「水で何か出来るかも?」と思ってもらえたら嬉しいです。
水は「社会をより良くする超優良ツール」です。
生成AIがドライブする現代だからこそ、”身体性”を有する水の価値が相対的に上がるはずです。
水ワクLaboでは、これからも「水」の視点で社会の解像度があがるような発信をしていきますので、応援よろしくお願いします!
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